プロジェクトメンバー日誌

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2024.3.12
まばたき1回100ミリ秒
メンバー日誌

医療情報DX担当です。

 


先日、全国児童青年精神科医療施設協議会 第53回研修会で海外とzoomで繋いで講演を行いました。講師の先生は米国ヒューストン、通訳は東京都内と茨城県筑波市、山形市に居る我々はフルリモートでインターネット越しで聴くという構成です。
普段、海外とzoom繋ぐことはそんなに無いため、映像音声のクオリティはどうかなぁ?と少し気になっていたのですが、始まってみれば問題無くクリアでした。

 

ただ、こうしたインターネット越しの通信ではどうしても「遅延」が発生します。人間は会話のキャッチボールを行う中で、相手の話を理解し、返す言葉を考え、それをいつ話すのか、無意識にタイミングを図っています。ここに通信「遅延」が介入してくると、上手くタイミングを図ろうとするあまり脳にストレスが掛かります。Web会議やると「なんだか疲れるなぁ」って思うそこのあなた、錯覚じゃなくてホントに疲れるのです。

 


この通信遅延の要因には大きく2つあって、1つは情報をコンピュータ上で処理する時間(送るときにギュッと圧縮、受ける側はパッと解凍)です。これはコンピュータの性能に左右され、ソフトウェア上の処理アルゴリズムも日々改良されています。2つめは拠点間の物理的な距離(単純に遠いほど遅れる)です。今回の講演でいうとヒューストン⇔山形の距離は約10,000km、光ファイバーの中を信号が行って帰ってくるのに要する時間は、単純計算で50ミリ秒×往復=100ミリ秒。100ミリ秒といえば人の眼がまばたきする時間に相当します。実際にはこれに加えて伝送経路上の様々なネットワーク機器を通ってくるため、その処理時間もタイムラグとして加算されます。

 

※光の速度は約30万km/秒っていいますが、これは真空中での話。光ファイバーなどガラス質の中を通るときは約20万km/秒に減速してしまいます。

 


さて、人間同士が会話するのも大事ですが、機械同士が会話するのがこの世の中でして、この通信遅延の影響がバカにならない業界も多々あります。例えば株券の取引などの金融取引。東京証券取引所で使われているarrowheadというシステムは、取引注文の応答時間が約0.2ミリ秒という爆速。人間が1回まばたきする間に500回の取引をこなしています。

 

ではニューヨーク、ロンドン、パリ、上海といった海外から東京に売買注文が入ったとき、通信時間が掛かるとどうなるでしょう? 0.2ミリ秒で処理できるのに、通信時間で100ミリ秒も掛かってしまうとしたら? 人間の目視や反応時間を超える高速取引が行われているのが近年の金融市場です。通信遅延は取引処理の遅延となり、本来捌けるはずの取引ができなくなるわけですから、大きな機会損失の発生に繋がります。

 

この頃、日本国内では千葉県にデータセンタを建てるのが流行っているのですが、これも通信遅延を回避するのが目的の一つです。北米と結ばれている海底光ケーブルが陸揚げされるのは千葉県や茨城県の海岸ですから、最も需要が多い東京都内との間にデータセンタを設けるのは地理的にも合理的。数ミリ秒、いや数マイクロ秒でも通信遅延を減らすべく、ネットワーク屋さんは血のにじむような努力をしているのです。

 


では我々医療業界ではどうかというと、今後発展が見込まれる遠隔医療の分野が挙げられます。昨年秋、シンガポール⇔日本で遠隔手術の実証実験を行った際のタイムラグは、100ミリ秒だったそうです。

 

100ミリ秒=まばたき1回分のタイムラグ、すぐ慣れるとは言っても術野操作にまだ違和感はあるでしょうね。遠隔手術の普及が望まれるのは難しい手技も多いでしょうから、例えば微小血管の吻合などマイクロサージェリー分野ではもっともっとタイムラグを減らす技術革新が求められるでしょう。

 

そんなことをぼんやり考えたひとときでした。

(やべっ、まばたきパチパチ2回=200ミリ秒消費しちゃった)

 

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