
医療情報DX担当です。
ある日、何気なくYoutubeを眺めていると、ある動画に目が止まりました。
JRの駅できっぷを買うとき、窓口のおねいさんが「あたたたたたッ」って高速職人芸を披露してくれるあのマシンです。 国鉄時代から60年以上動き続けているMARS(マルス)というオンライン予約システムの端末なのですが、 この動画の端末は20年くらい前に登場したちょっと古めのヤツです。
映像はこちら👇
めちゃくちゃ速いおねいさんの手さばきに目を奪われますが、きちんと追従してくる画面反応の速さや、作り込まれた画面構成など、よく出来たシステムだと思います。 もうちょっと詳しく見て見ましょう。
①まずマウスが無い。
タッチパネルと物理キーが近接しており、手の移動が最小になるよう設計されています。パソコンみたいにマウスとキーボード、いちいち道具を持ち替える必要がありません。
②プルダウンやスクロールをさせるところが一切無い。
隠しメニューはありません。画面に見える情報が全てです。しかも画面スクロール無し(=情報の上下左右の移動無し)。隠れた情報を出すためにゴニョゴニョ操作することはありません。
③その代わりに画面遷移(ページ切替)で必要な情報を展開する設計。
大切なコア部分の情報(この場合はきっぷの行程など)は左側に表示し続け、ページ切替させるのは画面右側に抑えています。
当然この端末、素人が扱えるシロモノではありません。この端末で仕事しようとする人は、相応の研修を受けて操作方法を学習しなければなりません。何度も何度もオペレーションしながら操作に習熟していくと、この動画のように華麗な動きで業務廻すことができるようになるのです。
すると、こんな風に思う人もいるでしょう。
「複雑かつ習熟が必要なシステムってダメじゃん。これって人間が機械に使われているんじゃないの?」って。
まぁ個人的な意見になりますが、これはこれで良いんじゃないかと思います。なぜなら「プロが使う道具」なので。
この端末を操作するオペレータは、前提として複雑な運賃規則・約款などを理解している必要があります。国鉄時代から脈々と築き上げられてきた運賃計算ルール、もはや複雑すぎてとんでもないことになっています。そんなことは知らぬ存ぜぬなお客さんの曖昧なリクエストをかみ砕いて端末に入力し、成果物としてきっぷを取り出し、対価を受け取る、これがお仕事。そこに特化したシステムは、誰にも易しい機能なんて無くていいのです。
ここで求められるのは「ちゃんと訓練した人が最速で仕事をこなせる」切れ味のイイ道具なのです。
でも時代は変ってきました。
世間では人手不足です。
駅の窓口は縮小傾向になって、代わりにお客さんが自分で自動券売機やインターネットで直接買うようになってきました。当然、お客さんが直接システムと対話することになるのですが、このユーザインターフェース(UI)設計ってめちゃくちゃ難しいのです。なにしろ複雑なルールに則っているものを、誰にでも易しく解りやすく提示してあげなければならないのですから。
乗継割引
会社境界区間の特殊ルール
途中下車
特急券と乗車券の分離
ICカードと紙きっぷの扱い差
そもそも“積み重なり続けた複雑さ”は、どれほどUIを工夫しても、自然な画面設計に落とし込むには限界があります。
券売機やアプリで迷うのはUIの問題ではなく、ルールそのものが複雑すぎるから。
ですからJR各社は少しずつ運賃規則を簡略化する方向に舵を切っています。
「制度と運用の再設計=DX」という流れですね。
では、私たちの医療業界はどうでしょうか?
使いやすいシステムはどのようなものであるべきでしょうか?
先ほどのきっぷの話では「ルールを単純化」することが解決策の一つです。
ですが、医療データは「そもそも構造化しにくい」。
つまり鉄道の運賃規則のようにルール側を単純化することで扱いやすくするという方向が根本的に通用しません。
ここが根の深ーーーーい医療情報システムの難しい点です。
主訴や症状は人の言葉で記録される
医師の判断は過程と背景に依存する
看護記録や経過記録は日々変化し続ける
検査画像や所見にはあいまいな表現が含まれる
これらは定型化しようとしてもこぼれ落ちる情報です。
どんなに項目を増やしても、「その患者らしさ」は欄外に逃げていく。
まさに“非構造化の宿命”です。
そのため、
まず、ルールが複雑で
その上、データは構造化しづらく
おまけに、例外処理が常に発生する
…という診療現場で動くシステムというものは究極に難しいシロモノなのです。
ですが、医療データの非構造性は、改善すべき“欠陥”ではありません。
なぜならそれは人間の思考と観察の豊かさそのものだからです。
むしろ必要なのは、複雑さをそのまま扱いながら、人が理解しやすい形に翻訳すること。
自由記述をAIが要約し、構造化情報と結びつける
重要な変化を抽出して可視化する
判断を支援するUIを設計する
例外処理を柔軟に受け止める
つまり、医療DXの目指す方向は「単純化」ではなく、“複雑さとの共存設計”です。
医療情報システムの使命は――
複雑さを無理に削ることではなく、
その複雑さを理解できる形で支援すること。
だからこそ医療情報システムの“使いやすさ”は、単純化ではなく、複雑さを理解できる形に翻訳し、扱いやすくすることにこそ宿るのです。