プロジェクトメンバー日誌

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2023.12.5
情報の安全な流通と活用
メンバー日誌

医療情報DX担当です。


秋は学会シーズンです。私も毎年参加している医療情報学会というものがありまして、今年も顔出してきました。
今年のテーマは「医療情報の安全な流通と活用」。産学連携の視点からちょっと面白い演題がありましたのでご紹介します。

 


皆さんカプセルホテルって利用したことありますか? 蛸壺みたいなベッドがずらっと並んでいて、夜更けに酔っ払いのヲッサンが転がり込むようなイメージを持つ方もいるかもしれません。ところがどっこい昨今のカプセルホテルは綺麗でオサレで若年層や女性の利用も増えているそうで、そんな某カプセルホテル運営会社さんのお話です。

カプセルホテルでベッドとなる「カプセル」ですが、ある意味閉鎖空間で各種センサ取り付けて生体情報を集めるのに適したカタチです。ここに目を付けた某社さん、本当にカプセルにセンサ取り付けて睡眠データを取得し、いびき・呼吸状態・心拍などをお客さんに睡眠解析レポートとして提供するサービスを始めたそう。
https://ninehours.co.jp/images/photolibrary/news/220920_9h_sleeplab_release.pdf
いわゆる付加価値提供の一形態ですね。

 

ここから少し箇条書きで。
・睡眠解析のセンサは、赤外線カメラ・集音マイク・体動センサの3つ。
→赤外線カメラは真っ暗闇でも映るので、寝相のほか寝顔もバッチリ記録するほか、眼球運動も(1晩のデータは5GBにもなるとか)
→集音マイクはいびきの他、寝言も鮮明に記録
→体動センサはマットレス下に敷かれたもので、心拍計測ができる優れもの
・これらセンサの情報を統合することで、睡眠時無呼吸のリスクを見たり、ノンレム・レム睡眠を推定して眠りの深さを見たり、更には夢を見ている時間はどのくらい?とかいろいろ応用が利く。
・これらをリラックスした環境、つまり日常生活に近い状態で測定できることが重要なポイント。何しろ被験者(お客さん)はフツーに寝るために来るわけですから、病院などでセンサ貼りつけられて寝るのとは大違い。
・今までに6万人くらいの睡眠データが蓄積されていて、これはもう立派なビッグデータ。
・データ母集団の偏りを見た場合、冒頭で書いたように綺麗でオサレなカプセルホテルということで、女性や若年層などを取り込んで幅広くなりつつある。
・インバウンドのお客さんも多いので、国籍(人種)も幅広いデータが集まる。本業は宿泊業なのでチェックイン時にパスポート確認する訳ですから、これはかなり正確な属性情報。

 

こうした睡眠データの計測、あちこちの研究機関や企業から引き合いがあるそうで、最近では東京医科歯科大学と「不整脈の検出方法確立の共同研究」なんてのも始めたとか。
https://ninehours.co.jp/images/photolibrary/news/9h_release_tmdu_230925.pdf
これはセンサ技術の進歩が一役担っている面もあり、体動センサのサンプリングメッシュ(検測間隔)は1,000Hzクラスなんだとか。巷のウェアラブルデバイス(アpple うatchとかグoogle ふitbit)がせいぜい10Hzくらいなのに対して、循環器内科医が欲しいレベルは500Hz以上だったそうで、これを余裕でクリア。

 

研究者からもCO2センサ付けたい、脳波測りたいとかリクエストがあるそうで、中には「成田空港のカプセルのデータが欲しい!」っていうピンポイントなリクエストも。時差ボケが身体や精神に与える影響って今までデータエビデンスに乏しく、そっち方面の研究者にとっては海外からやって来る時差ボケお客さんの睡眠データって貴重なんだそうです。

 


さて、表題の「情報の安全な流通と活用」です。

 

今までの話を読んで「自分のデータが勝手に知らないヒトに使われたらヤダなぁ」って思いませんでしたか? この点、個人情報保護法で規定されているとおり、個人情報を集める際はその利用目的を特定し、本人の同意を得た上で収集し、また本人の同意なしに第三者に提供することは制限されています。(このカプセルホテルの話、もちろん宿泊時に同意を得る前提です)

 

ですが、日々大量のデータが生まれるこの世の中、医学研究に用いるために数万人規模で一人ひとり情報提供の同意を求めることは事実上不可能です。更に今眠っている様々なデータを活用せずに放っておいたとしたら、先端的な科学研究や未来の新産業創出の機会を失ってしまうことに繋がりかねません。

 

そこで2018年5月に「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」という法律が施行されました(長ったらしいので「次世代医療基盤法」と呼ばれてます)。これはデジタルデータを活用した次世代の医療分野の研究、医療システム、医療行政を実現するための基盤として、医療現場から多様なデータを大規模に収集・利活用する仕組みを設けることを目的としています。具体的には、カルテや検査データなど医療機関などが持つ患者の医療情報を、個人が特定できないように匿名加工し、大学や企業での研究開発などでの活用ができるような仕組みを作ること、そして安全な情報流通のためにこれが出来る事業者を厳しい基準で国が認定しましょう、という骨子で成り立っています。

 

この次世代医療基盤法、今年5月に改正され間もなく施行される予定です。詳しい内容は省きますが、医療情報の有効な活用として個人情報保護法が「ブレーキ」、次世代医療基盤法は「アクセル」として働く仕組みになっています。両者が組み合わされて「安全」な情報の流通が実現し、その情報を活用した研究成果が私たちの社会に還元されることを期待しています。

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